日記

ミオ

中学時代の同級生にミオというコがいました。
頭は良いけれど少しとぼけたところがあり、同級生達から始終からかわれているような愛されるキャラクターでした。
その彼女が書いた夏休みの作文には、父上(確か学者さんだったように記憶している)と一緒に出かけた異国の地での出来事や、珍しい植物の観察日記が、誇張することなく生き生きと描かれていて、私は、心ひそかに『この人は、すごい』と感服していました。

当時、読書少女だった私は、お昼休みの後半を図書室で過ごすことが多く、『詩とメルヘン』という雑誌を毎月読んでは「こんな風に絵が描けたらなぁ」と、自分の絵や詩がいつか雑誌に掲載されることを夢みていました。(残念ながら絶版になりましたが)

ある時、ミオが私の側にやってきて『詩とメルヘン』を開いて差し出し、「この詩、ゆーこが書いたんとちゃう?」と目を輝かせながら言いました。
私は、面食らって「違う」「そんなわけないやん」と、怒ったように横を向いてしまいました。
「絶対に、ゆーこやと思ったんやけどなぁ」とにこやかに言う彼女に対して、未熟だった私の心の中は『とんでもない』『自分のほうがずっとスゴい文を書くくせに』と、泣きたいような恨みたいような気持ちが渦巻いていました。

大学生になったある日、京都大学の構内で私がチェロを弾いていると、扉の向こうから突然現れたミオは「ゆーこ!まだチェロ続けてたんや!スゴイ音やなぁ。やっぱりゆーこは、スゴイなぁ」と何度も言いました。

そんな彼女は京大生で、私はオーケストラに所属するために訪れた京大で楽器を弾いていただけで、相変わらず真っ直ぐに私を見るミオの顔を、私はまともに見ることが出来ませんでした。

あれからずいぶん月日が経って、彼女に会う機会も無くなりましたが、つくづく『ミオには悪いことをしたなぁ』と思います。
今なら、もしも誰かが自分を過大評価してくれたら卑屈になったりせず、その評価に追いつけるように頑張りたい、と思えるのに、と。
それと同時に、幼稚な私の態度にもめげず、いつも曇りの無い瞳で褒め続けてくれた幼かったはずのミオの優しさと強さにも敬服します。

ステンドグラスを何度も作り直す時、どうしようもなく嫌になって疲れたら、『ミオに見せても恥ずかしくないか?』と自分に問います。
ずいぶん時間がかかったけど、いつか今の私を見てもらえたら、きっとミオが思ってくれた私に近づいたはず。その時のためにも妥協しちゃだめだ、と。

6件のコメント

  • らふぁえる

    すごい懐かしい名前を見た。
    私は彼女に個人的な強烈な思い出はないけれど、なぜか時々、どうしてるんだろう?って思い出す人の一人です。
    頭は良かったけど、人気があるわけでもなかったし、おとなしくて、目立たないタイプだったけど、こうやって考えてみると、なにげに存在感があったのかも。
    こうやって、違う人が同一人物に対して見ていたイメージが違うのを見ると、面白いなと思う。
    本当に人生って、自分の掛けている色眼鏡によって、全然違った風景になってしまうんだね。
    彼女、一体どこで何やってるんだろうね?

  • ゆふこ

    私も、それほど仲よかったわけでもなく、でも何故か
    いつも突然 私の前に現れては、話しかけてくるコやってん。
    共通の親しい友人がいるわけでもないので、今は全くの
    音信不通やけど。
    たぶん、彼女が、私の人生で初めて、私のことを手放しで
    認めて褒めてくれた人だと思う。
    今、自分で思い返してみても、それほど褒めちぎられるような
    ことをした覚えが無いので、どうして彼女が私のことを
    そんな風に認めてくれたのか未だわからず。。。
    でも、それならそれで彼女が思ってくれた私に近づきたいと
    思うようになった分、少しは成長したのかも。
    それにしても、不思議なコでした。

  • なごみ

    私もなつかしい名前を見つけたわ!
    彼女とは 接点はあまり無かったので
    思い出は正直言ってないのだが・・・
    今思えば 彼女はいつも人が見てるところとは
    違うところを見つめていたような気がするな・・・
    会いたくなってしまったよ

  • YUM

    うす。ちょっと疲れ気味なので(メールするわ)、和みにきましたー。
    おぬしの文章、だいぶ須賀敦子はいっとるな!(笑)

  • ゆふこ

    そうかしらん?
    ファンだから良いけれど、なんでだろ?
    女子校育ちだから?
    このブログは、mixiと違って私を知らない人も読むという
    前提で書いているので、日常の細々したことを書いても
    面白く無いかな、というのと、親しい人が読んで「わはは」と
    笑えることでも、そうじゃない人が読んだら不快な気持ちに
    なるかもしれないようなことは避けているので、自然と
    真面目モードになっているかも。
    もうちょっと、おちゃらけても良いかもね~。

  • YUM

    私もゆふこに教えられてからすっかり敦子ファンよ!紹介してくれてホントありがと。こちらにも何冊か大切に持ってきました。ま、まだ読んではないけど、、、、、。
    ゆふこのブログは癒し系やね。おちゃらけなくって良いって。止まらんようになるで~!

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