作品,  日記

灯籠

3年ほど前に、庭師さんが「今度、開店するバーの庭にある灯籠にステンドグラスを入れたいと思ったのですが、可能ですか?」と訊いてこられました。

「できますよ」とお答えしましたが、新しいお店の開店時期と私の出産の時期が重なったこともあって、それからその話は立ち消えになっていました。

先日、その庭師さんからまた電話があって「やっぱり作って欲しい」と私の工房を訪ねて来られました。

「3年前、新しいお店の開店に間に合わせるために、とりあえずお店から一番近いステンドグラス工房を探して急いで作ってもらったけれど、やっぱり自分のイメージ通りのものを作って欲しいと思うようになった。お世話になった人のお店だから今回のステンドグラスは私からのプレゼントにしたいと思っている」とのことでした。

「デザインはお任せします」とのことでしたが、その言葉を信じてはいけません。

そもそもステンドグラスのような嗜好品を「オリジナル作品でオーダーしたい」なんて言う人に、こだわりが無いわけなんて無いのです。(庭師さんがネットに興味がないのをいいことに好きに書いてます)

そこで、私はヘナチョコ刑事のように「こんな形はどうです?」「こんな色は?」とか「前に私が見たことがある絵で、こんなのがありまして。。。」とか、あの手この手でお客様から「制作のヒント」になるものを引き出そうと頑張ります。光景としては、机の上にポツンとライトとカツ丼を置いて「はいたほうがラクになるから正直に全部話そうよ」って感じです。

そうすると、やっぱり庭師さんの「こだわり」があって、とうとうデザイン画までご自分で描き始められました。

ガラスもいっぱい見て、選んで、よし決定!。。。となった1週間後「やっぱり色を変えたい」と工房に来られました。

「この1週間、ガラスの色のことばかり考えていました」と困ったようにつぶやく庭師さんは嬉しそうにも見えました。

灯籠は四角柱の形をしており、そのうち2面を切り取るような窓があって、そこにステンドグラスをはめ込みます。「く」の字のように直角に曲がったステンドグラスを鉛線で組むと、シンプルでも重厚な雰囲気が出ました。

この写真は工房で撮ったので、白い壁の前で光が透過して見えます。

が、実際には灯籠にはめ込むわけで、ステンドグラスの背景は真っ暗、光源は小さなロウソクのみです。

そこで、灯籠の中に入れる金屏風ならぬ「鏡の屏風」をステンドで作りました。

鏡にロウソクが映って、あちこちに光源ができました。

2面の真ん中から見ると、こんな感じです。

庭師さんは「灯籠の中のことまで考えてくださって、ありがとうございます」と深々と頭を下げて、大事そうにステンドグラスを抱えて帰られました。

灯籠という昔から日本にある和風のものに西洋のステンドグラスが入ることによって、古いものがモダンに変身するって、面白いなぁと思います。

庭師さんからは、植物と対話すること、目測ながらも均整に作り上げていく昔ながらの日本の庭の話を聴きました。「和」の世界に身を置きながら「ステンドグラスを使いたい」なんてよくぞ思いついてくださいました、と感謝しました。

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