日記

焦げた野菜

昔から真夏に汗水たらしてでも焼きナスを自ら作る子どもでしたが、大人になってから訪れたイタリアで、ただ焼いて塩とオイルをかけただけの野菜に出会い、以前にも増して「焦げた野菜バンザイ」と感動しました。

グリルパンのシマシマ焦げめも美しい野菜も素晴らしいのですが、真っ黒焦げに焼いてから中身を取り出す方式の野菜も大好きで、例えばイタリア料理の前菜に出てくるパプリカのオリーブオイルあえは大好物です。

ところが、このパプリカが意外とくせ者で、直火で炙った後、真っ黒に焦げた皮を剥こうとしても上手くいきません。料理の本には「水の中で洗いながら剥く」とありますが、それだと水っぽくなってしまいます。「ビニル袋の中に入れて蒸らす」というレシピも試してみましたが、それも上手くいきませんでした。

そんなある日、まだカタギの会社員だった私は、部署の歓迎会で全く気の合わない上司の目の前に座らされていました。どれくらい気が合わないかというと、一生の間で彼以上(以下?)の人には出会わないであろうというくらいで、「僕は森田健作に似ている」と自慢する彼の話を仕方なしに聴いていたその時、目の前に真っ赤なパプリカの前菜が登場しました。

「これ、大好きなんですよ」と私が言うと「気が合うねぇ!僕もだよ」と、その気が合わない上司が上機嫌で言いました。

そこで思いがけず「これ、どうやって作るか知ってる?イタリア人がいいやり方を教えてくれたんだけど」とその上司は言いました。いつになく積極的な私は「知りません、是非教えてください」と彼に訊ねました。

「まず火に炙るでしょ。それからね、焦げたパプリカを何重にも新聞紙にくるむんだよ。30分くらい経ってから取り出して剥くとね、簡単に剥けるから。イタリア人が言うんだから間違いないよ。」と教えてくれた上司と、生涯最初で最後の握手を交わし、私は「素晴らしい。ありがとうございます」とお礼を言いました。

もしお好きなかたがいらっしゃったら試してみてください。本当に簡単に剥けますので。

どんなに気の合わない人でも何か得るものは有る、というお話でした。

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