教室

生徒さんのおうち訪問

Sさんが初めてステンドグラス教室に来られた際に「建設を計画中の自宅に自分で制作したステンドグラス を入れたい」と言われ、「うーーーん」と唸ったのが約2年半前のことでした。

 

全くの初心者が建築用のステンドグラス を制作するのは至難の業です。私が制作するほうが早くて、そしてたぶん安いです。それでも、Sさんは「できるだけ自力で制作したい」とのことでした。

生徒さんの夢を叶えるのが私の仕事なので、Sさんの希望を聴きながらデザイン・製図し、制作が難しい箇所はサポートしつつ、Sさんができるだけ自分で制作できるように力を合わせて頑張りましょう、ということになりました。

 

まず初めに、お茶室に合うイメージで鏡を制作されました。

この鏡は教室の課題「六角形を使ってデザインする練習」でもあります。

伝統的な和柄をちりばめた左右非対称のデザインで、青海波にはフュージングを取り入れ、最初からあちこちに工夫が凝らされた作品になりました。

 

リビングの扉には、太陽をイメージした赤と緑が鮮やかなパネルを制作。

ケイム(鉛線)に慣れていただくため、簡単な図案を描き、難しい箇所はお手伝いしつつなんとか完成。

「クリムトが描いたベートーベンフリーズのバラを取り入れたい」ということで、『言いたいことはわかりますが、そんなところまでよく見てますね。。。』というバラを実現するべく、フュージングで表現しました。

この最初のパネルが無事に完成し、「なんとかなる!」と確信したところで、ライトにも挑戦。

「勾玉が向かい合っている感じで」とのリクエストにより作図。

扉と同じように赤と緑の対にしましょう、ということで、ライトの裏側は緑色になっています。

 

このライトと同じ空間の壁には、お揃いのパネルを制作することに。

「黄金長方形」の美しさにいたく感動されたSさんが「黄金比を取り入れたい」ということで、勾玉と黄金比が同居する図案を描きました。

上記の写真ではわかりにくいですが、横幅が1mの大作です。

 

勾玉モチーフの連作ということで、玄関ホールに表札を制作。(名前部分はボカしてあります)

同じデザインながら色合いが微妙に違うところがまた素敵です。

 

1階の玄関ホールには、「鏡を使ったパネル」ということで百合を取り入れたデザインに。

こちらも幅1mの大作です。

玄関にふさわしいフォーマルな雰囲気を心がけ、左右対称にしました。

 

ここまで出来たら、竣工には間に合う!ということで、ホッと一息。

 

以前からSさんの希望であった「古い家にあったガラスを使ったステンドグラス」を実現するべくライトを制作。

階段の下の暗くなりがちな空間を照らすライトが出来上がりました。

立体の型紙をいくつも作っては眺めて修正し、制作時は2人がかりでガラスを組み上げた力作です。

 

古いものを大切にするSさんは、使えなくなったライトを作り替えることに。

<ゆふ工房のFacebookより>Sさんが結婚祝いにもらったランプのシェイド部分が古くなったけれど、陶製のスタンドは壊れていないので、もったいない!ということで、新しくシェイドを制作されました。
無色透明のガラスは、Sさんが古い家から大切に外してこられたものです。クランベリー色のガラスも古い工房から分けていただいたものなので、素材は全て古いものばかりですが、なんて可愛らしいのでしょう。新婚さんに贈られたプレゼントに込められた気持ちは消えないのだと思いました。

 

このほかにも、捨てられるはずだったガラスでランプを制作されました。

<ゆふ工房のFacebookより>
古い家にはめ込んであった昭和のガラスを四角にカットし、その下にダルガラスのカケラを半田付けされました。
「均整のとれた四角 & ランダム」「無色透明 & 色ガラス」と相反するものが融和するのはステンドグラスの良いところです。
古い素材がモダンに昇華する素敵な作品になりました。

 

この頃には、すっかり制作に慣れた様子のSさんは、次々と時計を制作されました。

サステナブルな制作を心がけるSさんのステンドグラスは、素材が生き生きとしています。

ヒトは昔から、そこにある素材を眺めて、工夫し、つないで、1つずつ丁寧に作り上げてきました。

それは唯一無二の作品であると同時に、与えられたものに感謝し愛しむ心の現れでもあります。

長きに渡るSさんとの制作の過程で、私もそのことを今一度、自分の心に刻む貴重な機会となりました。

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